慢性的な人手不足解消のために導入された特定技能の制度は、年々対象となる産業が増えています。
近年拡大された分野に「林業」がありますが、どのような作業ができるのでしょうか。
本記事では、林業における特定技能を中心に、資格取得の要件や雇用の際の注意点などを解説します。
特定技能に「林業」が追加
2024年、日本政府は特定技能の対象産業に、「自動車運送業」「鉄道」「木材産業」「林業」を追加し、「工業製品製造業分野」「造船・舶用工業分野」「飲食料品製造業分野」の3つの既存の分野に新たな業務を追加しました。
これにより、特定技能の対象産業は以下の16分野となりました。
介護
ビルクリーニング
工業製品製造業
建設
造船・船舶工業
自動車整備
航空
宿泊
農業
漁業
飲食料品製造業
外食業
自動車運送業
鉄道
木材産業
林業
ここでは特定技能「林業」に関して、以下の項目を詳しく解説します。
従事できる業務内容
雇用可能な期間
追加された背景と目的
外国人受け入れの見込み人数
従事できる業務内容
特定技能「林業」で雇用した外国人労働者の主な業務内容は育林や素材生産等で、業務区分も林業のみとなっています。
林業に携わる日本人が普段の仕事で行っていることも関連業務として行うことが可能で、具体的には冬の時期に行う除雪作業や林産物の製造や加工などがあります。
関連業務に付随する仕事であれば、作業を行っても差し支えありません。
雇用可能な期間
特定技能「林業」は原則として特定技能1号のみが認められているため、特定技能1号の有効期限である5年が雇用可能期間の上限となります。在留期間は1年を超えない範囲のため、定期的に在留資格の更新を行いながら、最長5年まで働けるのが2024年段階での状況です。
特定技能2号への追加は未定ですが、仮に特定技能2号への追加が認められれば、在留期間の更新回数は無制限となるため、事実上の永住が可能となります。
追加された背景と目的
特定技能に「林業」が追加された要因は、林業における慢性的な人材不足です。そもそも林業の従事者は国勢調査が行われるたびに減少しており、1980年に14.6万人ほどいた従事者は2020年の調査では4.4万人と40年で7割程度減っています。
また、林業に携わる人の高齢化率を見ても、2020年の段階で25%と他の産業と比べても多いのが特徴です。
近年は林業で働く若者を増やそうとさまざまな試みを行い、新規就業者は一定数確保ができています。定着率に関しても決して低いわけではありませんが、高齢者を中心に離職者が多く、なかなかその穴を埋め切れないのが実情です。
慢性的な人手不足を少しでも改善するため、特定技能「林業」を追加した狙いがあります。
外国人受け入れの見込み人数
特定技能「林業」において受け入れる外国人労働者の見込み人数は、2024年度から5年間で1,000人と設定されています。
2028年度末までにおよそ2万人の人材が不足すると仮定し、そのうちの1万5,000人分を生産性向上でカバーし、4,000人分は国内人材の確保で賄う想定です。
それでもなお不足する1,000人分に関しては、特定技能「林業」で来日する外国人材でカバーする予定になっています。
外国人が特定技能「林業」資格を取得する要件
外国人が在留資格である特定技能を得るには、それぞれの産業の技術試験や日本語能力試験をパスする必要があります。林業の場合には「林業技能測定試験」と「日本語能力テスト」が実施される予定です。
ここでは、それぞれの内容、評価水準などについて解説します。
林業技能測定試験
特定技能「林業」を取得するには、林業技能測定試験を受けて、合格しなければなりません。
一般的な技能測定試験は、試験を実施する国の現地語で行われます。また、CBT方式と呼ばれるコンピューターを活用した形式で行われ、内容は特定の職種に関する試験です。
林業に関してはどのような形式で行われるか未定ですが、CBT方式など一般的な技能測定試験と同じような形式になると考えられます。
林業に関する知識を始め、一定のスキルを有しているかを問うものとなるでしょう。
日本語能力テスト
日本語能力テストに関しては、「国際交流基金日本語基礎テスト」もしくは「日本語能力試験」の合格が必要です。
特に日本語能力試験に関してはN4レベルをクリアすることが欠かせません。N4レベルは、「基本的な日本語を理解することができる」レベルとされており、ややゆっくりとした会話であれば内容をほぼ理解できる状態です。
また、N4レベルの水準として「日本語教育の参照枠におけるA2相当以上」というものがあり、これに準じた日本語レベルであれば問題ありません。
日本語能力を審査する試験は複数あるため、「日本語教育の参照枠におけるA2相当以上」のレベルを満たす結果を出すことが求められます。
企業の特定技能「林業」の要件
企業側が特定技能「林業」を通じて外国人材を確保することを検討する際には、以下の2つの要件を満たさなければなりません。
木材産業特定技能協議会への加入
企業が満たすべき要件
木材産業特定技能協議会への加入
企業側が特定技能「林業」を活用していくには、まず木材産業特定技能協議会への加入が必須です。
木材産業特定技能協議会は農林水産省が設置するものであり、特定技能人材が所属する「特定技能所属機関」は構成員にならなければなりません。
企業側は構成員として、木材産業特定技能協議会に対して協力を行っていくことが定められています。具体的には農林水産省や、農林水産省の委託を受けた第三者の調査もしくは指導への協力です。
また、企業側が特定技能外国人を雇用する際に登録支援機関を活用する場合、支援計画の実施を委託します。この場合は木材産業特定技能協議会や農林水産省に対して協力する登録支援機関への委託が必要です。
企業が満たすべき要件
特定技能外国人を採用する際には、出入国在留管理庁が定めた「特定技能外国人受入れに関する運用要領」に書かれている「適合特定技能雇用契約の適正な履行の確保に係るもの」に定められた項目を満たすことが必要です。
具体的には「関係法令の遵守」「非自発的離職者の発生に関するもの」「行方不明者の発生に関するもの」などがあります。
これらを満たさないと、要件を満たしたことにはならず、申請しても却下されてしまうでしょう。
他にも、特定技能外国人を受け入れる支援体制を始め、受け入れ準備が整っているかも大事な要素です。
入念な準備を重ねた上で計画を立てていき、雇用を行っていく必要があります。
特定技能「林業」で雇用するときの注意点
特定技能「林業」を活用して雇用を行う際には、主に以下の2つの点に注意しなければなりません。
給与や労働時間等が「日本人と同等以上」であること
労働安全対策強化」に関する取り組み
給与や労働時間等が「日本人と同等以上」
特定技能外国人を雇用する際には、給与や労働時間などが日本人と同等か、それ以上でなければなりません。
特定技能基準省令において、外国人の労働時間や報酬額が通常の労働者と同等であり、外国人を理由に待遇面で差別的な扱いをしないことが定められています。
今後技能実習2号に林業が追加されるため、技能実習2号修了後に特定技能「林業」への移行が行われる可能性も想定されるでしょう。その際、技能実習2号での実習年数を経験年数に加味した給与設定などが必要です。
万が一最低賃金を下回るような賃金しか支払わないと、最低賃金法違反となり、罰金が科されてしまいます。また、特定技能基準省令にも反するため、要注意です。
「労働安全対策強化」に関する取り組み
2023年における外国人労働者の労働災害発生率を見ると、特定技能で働く外国人の労働災害の割合は、1,000人あたり4.31人でした。
これは全労働者の平均である1,000人あたり2.36人よりもはるかに高く、技能実習よりも多い結果となっています。
また林業に関して、労働災害の割合は1,000人あたり22.8人と他の産業よりはるかに上回っている状況です。
参照:林業労働災害の現況
ただでさえ特定技能外国人は労働災害に巻き込まれやすい中、林業に携わるとなれば、より危険な状態に陥りやすいでしょう。
そこで、「労働安全対策強化」を図り、特定技能外国人がケガなく働けるような労働環境を整備する必要があります。
具体的な対策として、外国人の母国語で行われる安全衛生教育を始め、ゆっくり行う日本語でのコミュニケーション、ピクトグラム安全表示などが挙げられるでしょう。
各業界では「外国人労働者に対する安全衛生教育教材」が作られていますが、林業でも作られる可能性が高いため、これらの活用も必要です。
林業における特定技能に関するよくある質問
最後に、林業における特定技能について、よくある質問と回答をまとめました。
特定技能「林業」はいつから開始される?
特定技能「林業」は2024年度から受入れを開始することになっており、少なくとも2024年度中、2025年3月までにスタートする予定です。
一方で、試験の詳細などが2024年9月段階でまだ出ていないため、受け入れの本格スタートはまだこれからと考えられます。
特定技能「林業」を活用して特定技能外国人を受入れようとする企業にとって、この期間は準備を進める時期に位置付けられるでしょう。
特定技能1号と2号の違いは?
特定技能1号と2号では在留期間等を始め、多くの違いがあります。最もわかりやすいのが在留期間の違いであり、特定技能1号は通算5年を上限に在留できる一方、特定技能2号には上限がありません。
特定技能2号になると、永住権の取得要件を満たす可能性があるほか、家族の帯同も条件付きで認められます。
一方で、特定技能2号の在留資格を持つ外国人労働者は2023年末時点でわずか37人しかいません。
特定技能1号の資格で日本に在留する外国人が20万8,425人であることを考えると、相当な狭き門になっています。
今後、特定技能2号に移行できる外国人労働者がどこまで増えるのかに注目です。
まとめ
林業は高齢化が進み、人手不足に陥りやすい産業となっていますが、外国人労働者を確保することで発展も十分に見込まれるでしょう。
東南アジアを始め森林が多い国も多く、日本が持つ林業の技術を活用してもらいやすいのも実情です。
特定技能を積極的に活用し、林業分野の発展につなげていくことが望まれます。
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