東南アジアを中心に水産業は主力産業の1つとなっています。そのため、技能実習制度を活用して日本で水産業を学ぼうとする外国人は少なくありません。
日本の企業側もやる気に満ちた外国人に1人でも多く来てもらえれば、技術の伝達を通じて国際貢献にかかわることができるでしょう。
本記事では、技能実習生の水産業における受け入れ可能な業務・職種、従事できる関連業務、現在の技能実習生の状況などを解説します。
技能実習生の受け入れ可能な業務と職種
技能実習生は、特定の業務と職種に限定して受け入れることが可能です。水産業においても、技能実習生が従事可能な業務が明確に定められています。
ここでは、具体的な業務と職種について見ていきましょう。
漁船漁業
漁船漁業は、漁船に乗船する業務を中心に行います。主な作業は以下のとおりです。
かつお一本釣り
はえ縄漁業
いか釣り漁業
まき網漁業
ひき網漁業
刺し網漁業
定置網漁業
かに・えびかご漁業
棒受網漁業
1993年に始まった外国人技能実習制度ですが、実は1992年からかつお一本釣りに限って外国人の受け入れを行っています。
段階的に対象となる作業が拡大していき、1995年、1996年にはえ縄漁業といか釣り漁業、1999年にまき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、2005年には定置網漁業と増えていきました。
いずれも日本で開発された技能ですが、これらの技術や知識を学んで自国に持ち帰ってもらいます。持ち帰った技術や知識を活かして経済の発展に役立ててもらうことが、技能実習生の受け入れを行う大きな理由の1つです。
養殖業
養殖業は、ほたてやカキ、ノリを中心に展開されていますが、このうち、ほたて・カキが技能実習生の受け入れが可能な職種です。
養殖業の必須業務としては、ほたてやカキの取り扱いや漁具の製作や補修、整理整頓などがあります。また、安全衛生の確保なども必須業務に含まれており、ほたてやカキの養殖で必要とされる業務を習得することが可能です。
養殖業はインドネシアなど東南アジアでも盛んに行われているものの、養殖技術がなかなか上がらないため、日本が持つ養殖技術を習得してもらうことは、発展途上国の経済発展に寄与することになるでしょう。
水産加工業
水産加工業は漁業関係のカテゴリーに入る漁船漁業・養殖業と異なり、食品製造関係のカテゴリーに入ります。
そのため、以下の対象職種はいずれも食品製造系です。
加熱性水産加工食品製造業
非加熱性水産加工食品製造業
水産練り製品製造
缶詰巻締
作業が最も多いのは非加熱性水産加工食品製造業で、塩蔵品製造や乾製品製造など5つの作業が存在します。
加熱性水産加工食品製造業は節類製造や加熱乾製品製造など4つ、水産練り製品構造と缶詰巻締はそれぞれ1つずつです。
必須業務は主に原料となる魚介類の判別や処理、調理作業で、関連業務は製品の凍結や殺菌などになります。
技能実習生が従事可能な関連業務
技能実習生は必須業務だけでなく、関連業務にも就くことができます。実習にかける時間の中で、必須業務が過半数を占める必要がありますが、実習時間全体の2分の1以下であれば関連業務に従事させることが可能です。
また、周辺業務は必須業務の技能向上にあまりつながらないものの、仕事をする中では欠かせません。従事できる時間は、実習時間全体の3分の1以下です。
ここからは、それぞれの関連業務・周辺業務について解説します。
漁船漁業
漁船漁業は作業だけで9種類ほどに分かれており、それぞれに必須業務・関連業務があります。かつお一本釣り漁業を例に取ると、水揚げ作業の準備や水揚げ作業、陸上での漁具の製作・点検補修の作業が関連業務です。
周辺業務は出港時・帰港時の漁具の積み込み・積み下ろしの作業などが入ります。基本的に漁船漁業の関連業務・周辺業務には大きな差はありません。水揚げ作業や漁具の積み込み・積み下ろしが業務として定められています。
対して、必須業務を個々に見ていくと大きく異なり、第1号技能実習と第2号技能実習ではやることが異なることも珍しくありません。
ちなみに、技能実習実施計画では必須業務や関連業務などを事細かに書いて作成し、提出することが必要です。技能実習は3つの区分に分かれていますが、その区分ごとに実施計画を立てていきます。
養殖業
養殖業の関連作業はほたてとカキで多少異なりますが、おおむね10種類以上あり、養殖管理作業や害敵駆除作業、付着生物駆除作業、育苗養殖作業、水温・水質管理作業などがあります。
カキならではの関連業務としては、カキの種苗を船上で取り込む作業や収穫作業、かごを海に入れる作業などです。また、養殖用機械、設備、器工具等の清掃・保守・管理作業や海上作業なども関連業務として扱われます。
一方、ほたてを剥いていく剥き身作業や貝を運搬する作業などは周辺業務です。カキを収穫して製造や加工を行う作業も周辺業務とされています。
水産加工業
水産加工業はそれぞれの作業で微妙に異なるものの、関連業務は製造作業に必要な器具・工具・機械の取り扱い作業や製品の殺菌作業などです。
例えば、水産練り製品製造の関連業務では、製造用機械の保守・整備のほか、原材料の受け入れ検査作業などが該当します。
缶詰巻締は、缶詰の中身と缶詰用空き缶それぞれの製造が必要なため、関連作業もそれぞれに存在するのが特徴です。そのため、缶詰巻締に関しては他の水産加工業と比べると関連業務が多くなります。
周辺業務も関連業務同様、それぞれで多少異なるものの、工場内の清掃・運搬作業や梱包・出荷の作業が基本です。
水産業における技能実習生の現状
技能実習制度は30年以上の歴史がありますが、水産業における技能実習生の現状はどのようになっているのでしょうか。
ここでは、漁船漁業と養殖業それぞれの現状についてまとめました。
漁船漁業
漁船漁業に携わる技能実習生は2020年3月までは右肩上がりに増加していました。しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、2022年3月にはピーク時より半減してしまいます。
その後、コロナ禍も落ち着き、再び技能実習生は増えていますが、ピーク時にはまだ戻っていない状況です。
コロナ禍直前までは、かつお一本釣り漁業に技能実習生が集まっていましたが、その後はまき網漁業が最も多くなっています。
漁船漁業に携わる技能実習生のほとんどがインドネシア人であり、1つの国に依存している状態です。
養殖業
養殖業に関しても、コロナ禍前までの期間で人数が増加し、その後減少してから増えている状況です。
ほたてがい養殖の人数がここ数年で増えており、その割合は養殖業全体の4分の1までになっています。
漁船漁業ではインドネシア人がほとんどですが、養殖業ではベトナム人や中国人も多いのが実情です。漁船漁業と養殖業では一時期まで漁船漁業の方が多かったのですが、ここ数年で逆転し、養殖業の方が人数が多くなっています。
水産加工業
水産加工業における技能実習生の受入状況は、令和4年6月時点で、食品製造関連全体では約6.4万人の実習生が受け入れられており、そのうち約49%が惣菜製造業に従事しています。
水産加工関連では、缶詰巻締に536人、加熱性水産加工食品製造業に5,362人、非加熱性水産加工食品製造業に10,381人、水産練り製品製造に1,205人が従事しており、全体の約27.5%を締めています。
また水産加工業で従事するのは、ベトナム人が圧倒的に多いのが特徴です。
「技能実習制度」と「特定技能制度」の違いとは
技能実習制度と特定技能実習制度は在留資格としての違い以外にも、外国人を受け入れる目的が大きく異なります。
技能実習制度は、あくまでも日本で得た技能・技術・専門知識を自分の国に持ち帰って活用してもらうために作られた制度です。いわば技術を通じた国際貢献のために作られました。
一方、特定技能は日本人の労働力が減少し、深刻な人手不足に陥った分野において、外国から労働者を集めて就業者を確保する制度です。
また、技能実習は単純労働ができない一方、特定技能は単純労働が行えます。これも特定技能が人材不足を補うために新設されたものだからです。
他にも、特定技能は技能試験や日本語の試験に合格しなければなりませんが、技能実習は原則試験がないという違いもあります。
ちなみに、技能実習2号を修了してから手続きを経て、特定技能への移行が可能です。
技能実習生の受け入れで注意すべきポイント
技能実習生の受け入れにおいては労働基準法を守らなければなりません。また、水産業に限らず、技能実習生を受け入れるすべての企業は監理団体からの支援を受けることになります。
また、水産業の中でも漁業ならではの注意点もあるため、事前の確認が必要です。
労働基準法の遵守
労働基準法は必ず守らなければなりません。技能実習生も労働基準法の対象となるため、就業時間の管理や就労環境の整備などは、企業の経営者側が行うべきことです。
仮に、労働基準法違反を犯してしまうと、技能実習生の受け入れが当面できなくなるため、細心の注意が求められます。
そもそも労働基準法は、技能実習生だけでなく、雇用されているすべての従業員に適用されなければなりません。
監理団体の支援が必要
技能実習生を受け入れる際には、監理団体の支援が必要となります。監理団体は技能実習生がしっかりと実習を受けられるよう、技能実習生のケアはもちろん、企業側のサポートも行う大切な存在です。
特に初めて外国人を受け入れる際には、監理団体の支援は必須となります。企業側の配慮が届きにくい範囲にも監理団体がケアを行うことで、技能実習生・企業双方が安心して作業に臨めるようになるでしょう。
漁業に関するリスクを伝える
漁業に限定したことですが、まず漁業に関するリスクを伝えることが必要です。漁業は海上で仕事をする機会が多いため、水難事故に巻き込まれるリスクがあります。
例えば、水産加工業であれば水産物を加工して食品の製造を行う仕事のため、作業場は基本的に陸上です。
しかし、漁業は水産加工の分野と違い、海上での仕事がメインになりやすく、操業中に事故に巻き込まれることも少なくありません。
船員としての実習を受ける外国人が誤って海に転落して亡くなるニュースは毎年のように報道されています。漁具や機械の取り扱いを間違えて命を落とすケースも珍しくありません。
事前にこれらのリスクを伝えるほか、事故防止に向けた施策を採用・実施していくことで、安心して実習に挑んでもらえるような環境を整えていくことが大切です。
まとめ
水産業は、東南アジアにおける主力産業でもあるため、日本の高度な技術が影響を及ぼしやすいジャンルです。だからこそ、技術をしっかりと伝えるために、学びやすい環境を整えていかなければなりません。
在留資格を取得して日本に来てくれた技能実習生のためにも、これまで培った技術を伝播していけるよう努めることが大切です。
サークルズ協同組合は、2000年に設立された監理団体です。長年の経験を活かして、受入企業様にも実習生にも安心のサポート体制を提供します。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。